最近企業の動画制作を任せてもらうにあたって気付いたんです。
「あ、この動画すごい!」って心動かされる企業動画に出会ったことがないことに。
映像が美しいだけのブランド動画
訴求してるんだかしてないんだかよくわからないプロモーション動画
量産型の機械的なサービス紹介動画
原稿を読んでいるかのようなインタビュー動画
とにかく企業の凄まじさが伝わってこない。「ここに任せたら自分がもっと進化できそう!」と思えるような疑似体験ができない。やらせ感満載でリアル感がない。
もしかしたら私が知らないだけで良い企業動画が存在するのかもしれないですが、そんなにたくさんはない気がしています。
どうすれば企業動画をもっとよくできるのかを今回考えてみます。
作り込みとリアル感のバランスをとる
作り込むところは作り込むべきですが、リアル感もバランスよく入れられているビジネス動画が少ないと思います。
どこかで見たことがあるような作られたセットで、テンプレートのような構図で、いかにも企業動画という感じ。
ある程度似通った内容になるとしても、その現場の雰囲気をうまく表現する演出は無限にあると思います。
例えば、特にコンバージョンを大きく左右する顧客インタビュー。事例動画ですね。
そもそもインタビュー形式(インタビュアーは映らない)ではなく、対談形式のほうがいいか、ドキュメンタリー形式がいいか、一番魅力が伝わる映像形式から考えることが必要になります。「顧客インタビュー動画作りたいからインタビューしよう!」から始めちゃだめ。
次にリアル感をどう出すかを考えていきます。クライアント様によっては制限があると思うのですが、表現方法は無限大だと思います。
例えば、ある対談動画をつくることになったとき。
どうやってリアル感を出そうか考えて、究極的な演出は「お酒を飲みながら話す」というものでした。まっすぐな本音が聞ける感じがしませんか?
ただそれは現実的に無理だったので次にどうするかを考えていきます。コツはここです。一番最高だと思う演出を最初に想定して、そこから現実に近づけていく。最初から現実的な範囲で考えるとアイディアは出にくくなります。
結果的に、こうなりました。
対談本編のところは邪魔せず、冒頭(0:37)で「がんがん本音でしゃべってください」と言ってるリアルな場面をあえて入れました。たったこれだけで少し本音感を感じませんか?
ちなみに参考動画はこちら。柳井社長とイチローさんの対談です。
この「ちゃんとしてるけど、つくられてない、本音でぶつかってる感」を参考にさせていただきました。
これは単なる演出の一案で、他にもたくさん演出のやりかたはあるはずです。でもなんで企業の動画はどれも同じような、変に作られた感があるのか。
たぶん、参考動画を同じような企業動画しか見てないからだと思うんですよね。
他の企業動画を探したって同じようなものしか出てこないですから意味なくないですか?例えばインタビュー動画を撮るんだったら、上手に話を引き出してるアーティストインタビューとか、スポーツ選手インタビューとかからも学びがあるはず。もっと言ったら海外のインタビュー動画とかダイナミックな見たことない演出が多くて学びが多い。
ここはぜひクリエイターや制作会社に色々なアイデアをストックしておいてほしいところですね。企業動画をよりリアルに伝えたい、というニーズは高いと思います。
抽象的な内容を一切やめる
企業動画の「結局何言ってるかわからない」エンドのもう一つの要因が、動画に出てくる言葉が抽象的であるというのがあると思います。
「もっとダイナミックに!」
「我々はイノベーションを起こす!」
これではちょっとよくわかりません。
私はこういう「わかった気にさせる」動画を「雰囲気動画」と呼んでるんですが、これが意外と多い。伝えたいことが先行して見る側を考えていない、訴求力が低い動画です。
人間の脳の作り的に、「イノベーション」という言葉を理解するのに、視聴者の知識や経験と照らし合わせることになります。ということは、人それぞれ知識や経験は違いますから、伝えたいイノベーションという言葉を伝えたい通りに届けることはほぼ不可能なんです。
じゃあどうするかというと、できるだけ具体化すること。
イノベーションは何を指しているのか、どうアクションしてどう結果がでるのか。
特にインタビュー動画などは、ここをどう深堀りするかが大事になってきます。抽象的でありきたりな質問はだめ。できるだけ、状況が具体的でさらに感情が見える言葉を引き出す質問が必要です。
以下の文章例を見たら何となく違いがわかるでしょうか。
1:抽象的な表現
「たくさんの苦労や障害があって大変だった」
2:具体的な表現
「本当に美味しいお酒を作るために酒蔵を一軒一軒回っていった」
3:感情が伴うエピソード
「お前みたいな若造に何がわかるんだ!」と酒蔵の大将に怒られた。
こういう具体的なシーンが思い浮かぶような言葉を引き出すことで、視聴者の理解を促し、より魅了する内容になるはずです。
インタビュー前の設計がとっても大事。こういった細かい質問例もだいたい決めていくべきです。
先ほど紹介した対談動画は、事前に質問13個決めて共有していました。「これだけ具体的なことをお話してほしい」というのがわかるように、質問例も参考としてお渡ししました。

質問シート
本番は、もっとエピソードを深掘りしたかったなと思うところはありつつも、事前に質問項目を共有していたのでかなり具体的な話を引き出すことができたかなと思います。(そもそも登場いただいた企業様のお話がとてもお上手というのもあります!)
具体体なエピソードを引き出すコツは、何か回答をもらったときに「なぜそう思ったのか」「何がきっかけだったのか」など原点を聞いていくこと。
また、「そのときどう思ったか」「苦労したことを象徴するエピソード」など、感情を伴うエピソードを引き出していくこと。実際の出来事のほうが企業の姿勢や価値観を強く印象づけます。
これはインタビュー相手のことをだいぶ理解したうえで自分の想定を持ちながらヒアリングすると、より深い言葉が出てきます。事前に質問内容は相手に共有はしておいたほうがいいです。
こちらのインタビュー動画も、事前に10個以上質問項目を決めていました。英会話スクールの受講生の成功体験をインタビューする内容です。
かなり具体的な表現ばかりを引き出せている動画になっているのではないかと思います。インタビューを答えていただいた方のお話がとてもお上手なのもありますが、インタビュアーのヒアリング力が素晴らしかったんです!インタビュアーはこちらの英会話スクールの代表の方だったんですが、本当にこちらの受講生のことを理解しているのが伝わるヒアリングでした。
「たしか○○だったと思うんですが、どう心境の変化があったのか」
「〇〇があった時がターニングポイントだと感じるがどうか」
など、上手に具体的なエピソードと感情を引き出す質問の仕方でした。
インタビュアーによって本当に内容が大きく変わります。
以前一度プロのインタビュアーにクライアントへのインタビューをお願いしたことがあったんですが、ここが全然深掘りできてなくて実は動画がお蔵入りになったことがあります。インタビューのプロだとしても、インタビュアーに関する知識や洞察が足りなかったのかなと思います。
表面的なキレイさで終わらせない
どんなに美しい映像でも、結局何も伝わってこなければ意味がありません。
では「動画を作る目的を明確にしましょう」となるわけですが、実は多くの企業が何となく目的は設定してるんですよね。でも、いい動画ができない。
それは目的がふわっとしてるから。
「うちの良さを動画で伝えたい!」と意気込みはあっても、
- あなたの良さって具体的に何ですか?他と何が違うの?
- 機能的価値、情緒的価値は?
- それは視聴者にどんなベネフィットを生むんですか?
- 動画を通して視聴者にどんな変化を生みたいんですか?
- あえて映像で伝える意味は何ですか?テキストでは表せない見せたい部分はなんですか?
- 今、その動画をつくるべき理由は何ですか?(なんで今視聴者が見ないといけないの?)
こういう質問に答えられないケースが多い。
そもそも自分のこと、自社のことがよくわかってないんです。目の前の一本の動画だけ考えるのではなく、企業活動という大きな枠組みの中でこの動画がどんな立ち位置にあるのか俯瞰で考えないといい動画はできないと思います。
ぼやけたメッセージのまま制作会社やクリエイターに依頼しても、ぼやけたアウトプットしか返ってこないのは当たり前。
「結局、この会社は何をしているの?」と疑問が残って終わり。
映像がキレイであればとりあえず満足感は得られるので、それで完成となってしまう。
持論になりますが、企業自身が制作に結構介入しないといい動画は作れないと思っています。丸投げは論外。だって、お客様から普段どんな声をいただくか、何に実際喜んでもらっているかなどは企業が一番情報を持っていますから。
少なくとも企業は、ちゃんと動画制作の背景を具体的にクリエイターに伝える必要があります。
クリエイター側もしっかり企業をヒアリングしてほしい。自分のテクニックを過信せず、表現の核となる「伝えるべきものがなにか」をぐいぐい企業に聞いていってほしいです。
そして一回ヒアリングして理解する、というのはほぼあり得ないです。参考動画をたくさん見せて、「伝えたいイメージはAとBのどちらに近いか」「これより雰囲気は明るいか、シャープか」など何度もやってすり合わせていくことが必要だと思います。
心を動かすストーリーを入れる
企業の動画は単なる一方的な情報発信になりがちという点もあります。企業のYouTube発信は特にそう。カメラに向かってずっとしゃべっているような。
もちろんそういう動画が最適なケースもあります。ただ、その形式に囚われずに、せっかく動画にするんですから、伝えたい情報の羅列ではなくどうストーリー性ある映像にできるかを考えるべきです。
例えば、「クリエイターの探し方」をテーマに動画にするんだったら、探し方を淡々と説明するのではなく、実際にクリエイターを探すのに奮闘する姿を見せるのが良い場合もありますよね。具体的にどこに苦労しているのか、どこにつまづくポイントがあるのか見えやすくなります。
単なる情報列挙よりも、物語的要素がある方が印象が強く記憶に定着しやすいですし、登場人物やシチュエーションに共感しやすいというのもあります。
もしくは、クリエイターの探し方をクライアントに伝授して、そのクライアントがどんな成功体験をしたかを見せる方法もありますよね。
クリエイターの探し方を確立するための打合せの一コマ、作業風景などを通じて裏側を見せるのもありかもしれません。
1つのテーマに対して無限の見せ方があるので、その企業の訴求点を一番表現できる見せ方は何なのかを常に考えるべきだと思います。
「そんなの時間がかかりすぎる」と思われるかもしれません。しかし、テンプレ通りにカメラに向かって喋るスタイルで、他と大きく差別化する情報発信ができてますか?
もちろん、スピード重視やコスト面を考えて「カメラに向かって喋るだけ」の動画になるケースもあるでしょう。しかし、そこにストーリーという要素を少しでも加えるだけで、視聴者への訴求力は大きく変わります。結局のところ、動画ならではの強みを活かすためには、「表情」「声のトーン」「舞台裏」など文章だけでは伝わりにくい情報を意識的に取り入れていく必要があります。
見せ方の例
- 登場人物の本音や苦労を見せる
- リアルに進行している空気感を見せる
- 視聴者の疑似体験を作る
ただ、ストーリーを盛り上げるのが目的になってしまうと本末転倒。あくまで「視聴者にどんな行動をとってもらいたいか」「何を感じ取ってもらいたいか」を常に意識しながら組み立てることが重要です。
あとがき
企業の動画はもっともっとよくできるはずです。
視聴者はむしろ自分の意思決定のために「企業をよく知りたい」と思っています。動画は伝えられる情報がかなり多いです。動画の特性をどううまく活用して発信するか、動画だからこそ発信すべき自社の素晴らしい点はなにか。あらゆるコンテンツ形式の中でも動画で発信するべき理由はなにか。根本をたどると、もっと良い動画ができるのではないかと思います。