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ストーリーテリングがセールスコピーの売上を41%上回った事例

By ゾエ(川添志穂)

ストーリーテリング事例コピー

コピーライティングにストーリーテリングは重要な要素です。

その理由は単純で、人はストーリーにこそ心を動かされるからです。モノもコンテンツも溢れる中、機能や価格を理詰めで説得されても、なかなか心までは動かないですからね。

ストーリーテリングによって物語の中に登場する人物に共感した瞬間、自分ごととして商品価値を捉えられるようになり、行動(購入や申し込み)へと自然に向かいやすくなります。

今回はストーリーテリングを取り入れたコピーが通常コピーの結果を大きく超えた事例についてご紹介します。

ストーリー仕立てコピーが従来セールスコピーより41%多く申し込みを獲得

2024年末のあるマーケティングカンファレンスで、2人のコピーライターが登壇し自身のキャンペーンで行ったA/Bテストの結果を発表しました。

内容はオンライン学習「生産性向上コース」のプロモーションで、一方は従来型のセールスレター(コースの機能やメリットを網羅した洗練されたレター)、もう一方はシンプルなストーリー仕立てのコピー(そのコースがある苦境にいた起業家をどう救ったかという物語)でした。

結果:

30日間のテスト期間で、ストーリー版のコピーが従来版より41%も多くの申し込み(sign-ups)を獲得しました。カンファレンス会場でもその大差にマーケターから驚きの声が上がったと言います。

コピーの内容:

実際のコピーの内容は公開されていないので大まかな内容となりますが、

  • ストーリー版コピーの内容: ターゲットが共感できる「読者が直面するおなじみの苦境から物語を始め、試行錯誤の失敗談でテンションを高め、最後にそのコースとの出会いで人生が好転した様子」を描いたものです。この物語はターゲット読者自身の歩みと鏡写しになるよう設計されており、単なる娯楽ではなく戦略的に共感を生む構成でした。
  • 従来型レターの内容: 一方、従来型のレターはコースの完了率や受講生の成功率といった印象的な統計や実績を並べ、機能・メリットを強調するオーソドックスなものでした。

「ストーリーは魂を宿したデータだ」と言われることがありますが、まさにこの例はそうですね。従来コピーが数字で「何が可能か」を伝えていたのに対し、ストーリー版は「一人の人物の変身」を生き生きと見せることで、その数字の持つ意味を読者自身の物語として実感させたと言えます。

参考出典: Saleem Rana 「How a Simple Story Beat a Professional Sales Letter by 41%」 (CopyMasters Magazine, 2024年12月)

少女の物語 vs 統計データ:寄付金額が2倍以上に増加

「識別可能な犠牲者効果(Identifiable Victim Effect)」を検証するために行われた有名な実験です。2007年、米カーネギーメロン大学の研究者ら(Deborah Smallら)が慈善団体への寄付訴求文を使い、ストーリー重視とデータ重視で人々の反応がどう変わるかを調べました。

被験者は$5の謝礼を受け取り、その一部を慈善団体(セーブ・ザ・チルドレン)に寄付するかを選ぶ設定です。被験者は2グループに分けられ、それぞれ内容の異なる訴求レターを読みました。

結果:

統計レターを読んだグループAの平均寄付額が$1.14だったのに対し、マリ共和国の7歳の少女ロキア(Rokia)のストーリーレターを読んだグループBは平均$2.38を寄付しました。なんと寄付額が2倍以上(約109%増)という大差です。研究者は「顔と名前のある犠牲者(ロキア)の物語には、人々の共感を引き出す力が桁違いである」と結論づけています。

コピーの内容:

  • グループAには、アフリカの飢餓に関する統計を列挙したレター(例:「マラウイで300万人の子どもが食糧不足…エチオピアで1100万人が援助を必要としている…」)が渡されました。
  • グループBには、マリ共和国の7歳の少女ロキアの物語を語るレター(「ロキアの家族は飢えに苦しんでいます。しかしあなたの寄付があれば、この少女に食料や衣服、医療を届けることができます」)が渡されました。
  • 追加実験: ここが特に興味深いんですが、ロキアの物語+統計データの両方を盛り込んだ第三のレターもテストされました。しかしその場合、平均寄付額は$1.43に下がり、ロキア物語のみの$2.38から約40%減少しました。

ひとりの少女の具体的なストーリーが、大勢の飢えた人々という抽象的な数字よりも人の心を強く動かし、寄付行動につながったのです。研究者Paul Slovicは「人は“大勢”ではなく“ひとり”に心を動かされる」と述べています。追加実験については、大量の統計を付け加えることで、かえって焼け石に水というような無力感が生まれ、心が冷めてしまう現象だと分析されています。

マーケティングにおいても、統計や実績を並べるより顧客と一対一で向き合う物語を語る方が行動喚起につながる。

参考出典: Small et al. (2007) 実験 Sympathy and Callousness: The impact of deliberative thought on donations to identifiable and statistical victims/Medium記事 "Why We Care More About Rokia Than Statistics" (2025年)

HighriseランディングページのA/Bテスト:ストーリー型が最も高い成約率に

米37signals社(現Basecamp)が提供していたCRMツール「Highrise」のランディングページで行われたA/Bテストです。2011年に同社ブログ「Signal v. Noise」で公開され、合計4つのページパターン(A: 従来の簡潔なLP、B: セールスレター風の長文LP、C: 人物ストーリーLP、そしてD: 人物ストーリーに機能説明追加したLP)を比較しました。長文版には、Visual Website Optimizerが提唱するセールスレター型の要素を取り入れ、冒頭から問題提起→解決策→証拠(ユーザーの声)という流れで、より物語的に読者を引き込む仕掛けを盛り込みました。

A: 従来の簡潔なLP

A:従来の簡潔なLP

https://signalvnoise.com/posts/2977-behind-the-scenes-highrise-marketing-site-ab-testing-part-1 より引用

B: 長文ストーリー調のLP

B:セールスレター風の長文LP

https://signalvnoise.com/posts/2977-behind-the-scenes-highrise-marketing-site-ab-testing-part-1 より引用

C: 人物ストーリーLP

C:人物ストーリーLP

https://signalvnoise.com/posts/2991-behind-the-scenes-ab-testing-part-3-final より引用

D: 人物ストーリーに機能説明追加したLP

D:人物ストーリーに機能説明追加したLP

https://signalvnoise.com/posts/2991-behind-the-scenes-ab-testing-part-3-final より引用

結果:

約4.2万人の訪問者を対象にA/Bテストを行ったところ、「C: 人物ストーリーLP」が最も高い成約率を記録しました。セールスレター風の長文LPでもオリジナルの37.5%向上と改善は見られましたが、人物のストーリー(Jocelynの成功体験)を全面に出したLPが102.5%向上と最良の結果でした。

A: 従来の簡潔なLP(比較対象)

B: セールスレター風の長文LP = 37.5%↑

C: 人物ストーリーLP = 102.5%↑

D: 人物ストーリーに機能説明追加したLP = 22%↓

このテストの面白いのが、

  • 「長いコピーは読まれない」というのは思い込み
  • ダラダラと機能説明を加えると逆効果になる

という点ですね。

ターゲットが求める情報や、共感できる物語がしっかりと組み込まれていれば、文章量が多くても最後まで読まれやすくコンバージョンも上がる。Highriseでは、簡潔なページだけでは訴求しきれなかった価値をストーリーという形で伝えたことが、大幅なCVRアップにつながったと考えられます。

参考出典: 37signals “Behind the scenes: Highrise marketing site A/B testing” (2011年), Signal v. Noise

ウォールストリートジャーナルの伝説的セールスレター「2人の若者」物語

「伝説のセールスレター」として知っている方も多い、ウォールストリートジャーナルの購読勧誘レターの例です。1970~80年代にかけてウォールストリートジャーナル紙のDMとして大量に送付され、20年以上にわたり使われ続けたと言われています。

レターは「同じ大学を出た二人の若者の25年後の人生の違い」の物語から始まります。

“On a beautiful late spring afternoon, twenty-five years ago, two young men graduated from the same college…”

今から25年前の晩春のある美しい午後、2人の若者が同じ大学を卒業しました…

このあと「2人はとてもよく似た境遇だったが、25年後、片方は小さな部署のマネージャー、もう一方は社長になっていた…」という対比が描かれます。「何がこの差を生んだのか?」という問いかけから、「その差は、両者が持っている知識とそれをどう使ったかの違いだ」と論じ、この知識を提供するのがウォールストリートジャーナルである…という流れで新聞購読の提案につなげています。

結果:

この二人の若者のストーリー仕立てのレターは大成功を収め、ウォールストリートジャーナルの新規購読を爆発的に獲得しました。累計で推定20億ドル(約2,000億円)もの売上を生み出したとも伝えられています。当時の他のDMと比較しても桁違いの成果で、ウォールストリートジャーナルはこの「定番レター」を長年にわたり送り続けました。

「ウォールストリートジャーナルはビジネス知識が得られる新聞です!!」と言うのではなく、読者を物語に引き込み「自分も成功者になりたい」という感情を喚起してから提案するという流れが肝ですね。

アメリカでは、「二人の対比ストーリー」はよく使われる広告表現の一つ。1910~1920年代のブルース・バートンのThe Story of Two Men Who Fought the Civil Warなども有名ですが、このウォールストリートジャーナルの広告によってより爆発的に広まった気がします。

それにしてもこの広告が20年以上使われたというのがすごい。情報は常に変わりますが、ストーリーは色褪せないということがわかります。

参考出典: Copyblogger記事「The Greatest Sales Letter of All Time」(2022年)

あとがき

単なる事実を伝えるよりも、その事実をストーリーにのせて伝えるほうが人の心を動かします。数値がどうとか実績がどうとかも大事なんですが、その持っているデータをどう伝えるかのほうが大事。ビジネスシーンだとついつい前者に力を入れてしまいがちですが、ストーリーテリングも同時に考えていく必要があります。



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