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ストーリーとは単なる感情論ではない|よくある誤解から読み解く実態

By ゾエ(川添志穂)

ストーリーに対する誤解

「ストーリー」と言われても、結局何をどう語ればいいのかわからない…という方は意外と多いのではないでしょうか。

「自分の体験を話せばいいの? それとも商品やサービスのウリを感動的に演出すること?」

いま、ビジネスでもクリエイティブでも、一番の差別化要素は「ストーリー」と言っても過言ではありません。競合が増え、商品やサービスのスペックや価格での差がつきにくくなっている今こそ、自分だけの物語を語ることは大きな武器になるのです。

ですが、そもそも「ストーリーってなに?」「どう構成すればいい?」という疑問を持ったままでは、上手に語りようがありませんよね。

そこで今回は、「よくある誤解」という切り口からストーリーの本質を紐解いてみたいと思います。これを読めば、単なる体験談や感動エピソードにとどまらない、ビジネスやクリエイティブを動かす力としてのストーリーの活用方法が見えてくるはずです。ぜひ最後まで参考にしてください。

ストーリーは単なる感情論ではない

ストーリーは単なる感情論ではない

ストーリーなんて感情論では?商品やサービスを選ぶには客観的な理由(機能・価格・品質など)が大事だ!」と考える方も多いかもしれません。しかし、感情面と論理面は対立するものではなく、むしろ補完関係にあります。

ストーリーは感情を揺さぶるだけが目的ではなく、情報やメッセージをわかりやすく構造化して伝える手法です。感情的な要素はあくまでも一部であり、「理解しやすさ」「記憶に残りやすさ」「共感」などを生み出すためのフレームワークとして機能する、というイメージ。

人間の脳はストーリーで意思決定する

スタンフォード大学で行われた実験では(Chip Heath & Dan Heath, Made to Stick)、事実だけを列挙したスピーチと、物語形式で語られたスピーチを比較した結果、ストーリーを含むほうが22倍も記憶に残ったという報告があります。これは、データの羅列よりもストーリーのほうが、感情・イメージ・経験を追体験しやすい脳の仕組みに合致しているからだと考えられます。

脳は単なる情報処理装置ではありません。

例えば「コーヒーの香りがふわっと広がった」という描写を読んだとき、実際に嗅覚を司る領域が軽く反応したり、「ボールを投げる」といった行為を物語で読むと、脳の運動野が実際に動作をシミュレーションするように活性化したりケースがあります。

一方、データの羅列(数値・箇条書きなど)は、主に言語処理やワーキングメモリの領域で処理され、感情や五感に関わる脳領域までは十分に刺激しません。結果として、理屈は理解できても強い印象には残りにくいし、行動に直結しにくくなります

神経科学者のアントニオ・ダマシオは、『デカルトの誤り』などの著書で「人間は論理的な判断をしているつもりでも、実際には感情が大きく影響している」ことを指摘しています。彼の研究によれば、感情が伴わなければ決断そのものができないケースすらあるとのこと。

私たちはデータや事実を見ているようでいて、実際には物語的文脈や感情的要素を介して「意味づけ」し、最終的な判断をするんです。

子どもに道徳を伝えたいときも昔話など物語で伝えるのが基本ですよね。事実だけを伝えても、理解できないからです。物語に変換して、「だからこの道徳が大事なんだよ」という流れでないと、人間は理解することも記憶することも難しいのです。

ストーリーと論理的な情報を上手に両立する

何かストーリーの流れに合わせて数値とか入れればいいのでは?となりがちですが、そんなことでもありません。実は両者を上手に使える人はそう多くありません。

例えば、

「この洗剤は汚れの除去率が従来品比で115%であるため、洗浄効果が高く、1回あたりの使用量を減らせるためコストダウンが期待できます!リピート率が通常の洗剤の1.5倍近くになっています」

というコピー。一見良さそうに見えますが、ここに心打たれて買う人はほとんどいないはずです。

こちらのほうが印象に残りませんか?

「実は、ある主婦の方からこんな声をいただいたんです。
『子どもたちが川遊びをする場所を守りたいから、なるべく環境に負担をかけない洗剤を探していたんだけど、今までのエコ洗剤は汚れ落ちがイマイチだった。だけどこの洗剤は、水にも優しいのにしっかり落ちるから感動した』と。

その方は週末によくアウトドアに出かけるため、洗い物が多いんですよね。従来品より汚れの除去率が115%も高いので、少ない量でも食器のヌルつきが一発で取れる、と喜んでくださっています。

しかも、生分解性の原料を使っているので、排水の負荷が3割ほど軽減されるんです。つまり、家計にも地球にも優しい――そうした体験談が積み重なって、実際にこの製品はリピート率が通常の洗剤の1.5倍近くになっています。」

データにストーリーを足した文章だと、最初にエコ洗剤の数値情報(生分解性の原料使用、汚れ除去率115%、3割排水負荷軽減など)を示しています。しかし、それだけでなく、「ある主婦」の具体的なエピソード(週末アウトドアで洗う食器が多い・エコ洗剤だが汚れ落ちが良いなど)を語ることで、なぜその数字がユーザーにとって意義があるかをイメージさせています。感情面の訴求(子どもたちの遊び場を守りたい)と客観データ(排水負荷軽減率)を組み合わせ、記憶に残り、納得しやすいプレゼンになっています。

つまり、ストーリーは数字やスペックの価値をより理解しやすく、覚えやすくするためにストーリーを活用するということが重要です。ストーリーだけだと感情的で終わる可能性もありますが、客観データと組み合わせれば、「共感+理詰めの納得」の両立が可能になるということです。

特にビジネスにおいては理詰めをどう深掘りするかのほうが議論の土台になっているような気がしています。データをどうわかりやすく言い換えるか、というのは多くの人が労力をかけて追求しているはずです。しかし、それが「ストーリーに載せて伝える」ということはまだ広まっていないのがもったいないと感じています。

ストーリーは体験を語ることではない

ストーリーは体験を語ることではない

ストーリーはただ自分の体験談を語ればいいというわけではありません。根本に「伝えたいメッセージ」および聞き手が「聞きたいメッセージ」がないと何も伝わりません。単なる体験談は自己満足です。相手が何を得られるかを意識して組み立てることで初めて「ストーリー」として機能します。

単にエピソードをそれらしく語る「ストーリーっぽいもの」はたくさんあるんですよね…でも結局何がいいたいのかわからないものばかり。もしあなたが自分をアピールしたいのだとしたら、あなたの素晴らしさが垣間見えるストーリーを組み立てる力が必要です。

ストーリー「っぽい」例:表面的に整ったストーリーだが、本人の素晴らしさが見えない

「私が提案している新しいアプリ構想は、学生の頃からずっと温めてきたものです。きっかけは、大学時代に友人たちと立ち上げたイベントが大成功して、その時に『こういうアプリがあったら便利だよね』と何度も話題になったからでした。

実際、その友人たちも『絶対にイケる』『今の時代に合ってる』と大好評で、勢いに乗って試作版を作ってみたんです。デザインもすごくおしゃれになったし、テストユーザーからは『これ、すごく使いやすい!』との声をいただいています。

なので、ぜひこのアプリを正式リリースして、多くのユーザーに広めていきたいと考えています。最終的には、◯万人規模の利用を目指したいです。」


良いストーリーの例:本気で走り回った行動と情熱が見える物語

「実は、最初にA社へアプリの提案を持ち込んだとき、全否定されました。『貴社の商品とウチのサービスは客層が違うし、必要ない』と言われたんです。でも私はどうしても諦められず、A社のユーザーが集まるイベントやSNSコミュニティを片っ端から調べ、実際に話を聞きに行きました。

ユーザーからは『こんなふうに使えたらもっと便利になる』というアイデアがたくさん出てきて、それを踏まえてA社担当者へ改めてプレゼンしたんです。結果、A社側から『そこまで走り回ってくれたなら、こちらも本気で検討します』と意見がひっくり返り、今では共同チームを立ち上げるまでに至りました。

このプロジェクトで狙うのは売上10%増だけじゃなく、新たな顧客体験を創ることです。私自身が足を運んで掴んだユーザーの声を、このチーム全員で形にしたいと思っています!」

ストーリーは人の本質を映し出す鏡です。

形式的にはストーリーでも、主人公(語り手)の苦労や挑戦や情熱が描かれないと、人の心は動かせません。自身の本気度がどこにあるのか、どんな苦労を乗り越えたのかを含めて語る必要があります。

たとえストーリーの力で記憶に残ったとしても、オーディエンスの感情がぜんぜん違う方向にいったらそのストーリーに価値はありません。人々の記憶と感情に食い込むストーリーこそが、あなたのアイデアやビジョンを爆発的に広める最強の武器になるのです。

ストーリーは美談を語ることではない

ストーリーは美談を語ることではない

ストーリーは「成功談」や「美談」だけに限りません。むしろ、失敗や葛藤、挫折の要素も含める方がリアリティや共感を得やすくなります。ネガティブな要素を隠すよりも、課題克服のプロセスや学びを見せたほうが相手にとって参考になりますし、人間味がみえて信頼関係も築きやすいことがわかっています。

少し意識しないといけないのは、失敗談ではなくピボットストーリーを語らなければならないということ。みんな知らない他人には興味はありません。その人がどう課題に向き合ったのか、何を試して失敗し何を学んだのかを明かすと、聞き手は自分事と置き換えられて学びにつながります。

色々な企業のストーリーを研究していてわかったことなんですが、実は、スタートアップや新規事業が劇的に成功するきっかけは「思い切った方向転換(ピボット)」から生まれるケースが圧倒的に多いんです。製品をどうローンチして磨き上げたかという直線的なストーリーではありません。

Instagram、Slackなどもその一例。Instagramは場所特化のチェックインアプリが伸びず、写真投稿を中心にしたSNSにピボット。Slackはオンラインゲームの開発から大幅に方向転換してビジネスチャットツールへ。当初のコンセプトとはまったく違う方向に舵を切り成功を収めました。

ピボットストーリーを語る際のコツは、

  • 初期の狙いや仮説を提示する
  • どんな失敗や障壁に直面したのかを具体的に描く
  • 失敗や葛藤を通じて得た気づきや学びを明確にする
  • ピボットの決断と、その背景をしっかり説明する
  • 新たな方向性やアプローチが具体的にどう変わったのか示す
  • 変化後の成果やインパクト、さらに乗り越えた課題を紹介する
  • 学んだ教訓を聞き手が自分事化できる形でまとめる
  • 未完成な部分や今後の展望にも言及する

今あなたが語っているストーリーがもっと強くなるはずです。ぜひ欠けてる要素はないか見直してみてください。

あとがき

  • ストーリーは単なる感情論ではなく、論理的な情報と補完して使うもの
  • ストーリーは体験を語ることではなく、相手が何を得られるかを意識して組み立てるもの
  • ストーリーは美談を語ることではなく、ピボットストーリーを語るもの

今回はよくある誤解という切り口でストーリーを解説していきました。ストーリーってわかるようでわからない、というのが多くて人に説明するのも結構難しい。。。なので色々な切り口からできるだけ解説して「腑に落ちた!」と感じる人が一人でも増えるといいなと思います。


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