↑動画で見る方はこちら
低予算でのおもしろい撮影アイデアを発信しているカレン・チェン。YouTubeのチャンネル登録者数、Instagram、TikTokのフォロワーもすべて100万人超え!(*2025年7月時点)
AdobeやApple、Google、Netflix、Instagramなど数々のグローバルブランドとのコラボを実現してきた世界的なデジタルクリエイターです。
もともとプロの映像家でもなければ、アートスクール出身でもない彼女は、あるコンテンツがきっかけでたちまち有名になります。
それは、「撮影の裏側」を作品として見せること。これでたった1つの投稿から30万人のフォロワーを獲得するまでになります。
カレンはどうやってここまでの世界的クリエイターとなったのか。その裏側を紹介していきます!
撮影の裏側を見せてバズったカレン・X・チェン

カレンはショートとかリールの短い動画形式で、VFXも活用しながら完成度の高い映像を出してるんですが、実は低予算で思いもよらない撮影方法。だけど知ったらみんな試したくなるようなトリックばかり。

釣り竿や凧を使ってドローン風空撮ショットを撮ったり、シーリングファンを使ったり、Zoomの機能で透明マント作ったり…
彼女は徹底的に撮影の裏側を見せているのが特徴で、なんなら本編よりも裏側の撮影にこだわっているおもしろい人物。
カレンの受賞歴
- 世界的広告業界誌《Adweek(アドウィーク)》が選ぶ、最も革新的で影響力のある100人のクリエイティブ人材「Adweek Creative 100」に選出
- 米国のビジネスメディア《Inc.(インク)》が選出する、30歳未満の若手起業家・クリエイター・ビジネスリーダーのトップ30人を紹介するリスト「30 Under 30」に選出
カレンのストーリー
カレンが注目されるきっかけとなったのは、2013年に公開された「1年でダンスを習得する」という動画。ダンス習得を決めて、365日間自分を撮り続けた動画です。

Girl Learns to Dance in a Year (TIME LAPSE)
元々はダンス未経験者だった彼女が練習をスタートさせ、最後には格段にうまくなってる。このゼロからの成長過程が多くの人の心を動かしました。なんと再生数は1,234万回。(2025年7月時点)桁違いの共感を呼んでいます。
なぜカレンはこんな動画を出したかというと、
YouTubeで素晴らしい人を見かけても、みんなスーパーヒーローみたいに見える。どうやってそんなに上手くなったのか、その過程が全く見えない。も初心者だった頃を見せてくれない
Girl Learns to Dance in a Year on Queen Latifah Show
と、自分が感じた違和感が原動力となったようです。
この動画がバズったあと、カレンのもとには 「私も何かを始めたい。あなたみたいに成長したい」という数百件のメッセージが届きました。そこで彼女は、仲間とともに100日間、挑戦を毎日動画で記録し続けるプラットフォーム「giveit100.com」を立ち上げます。(*現在は終了しています)
毎日自分自身をビデオに撮る。たとえ転んだり、失敗したりしても、それでいい。それが GiveIt100.com です。
Girl Learns to Dance in a Year on Queen Latifah Show
この「過程を見せることの大事さ」を感じた経験が、カレンの制作の大きな転換点となります。
本編よりも裏側を見せろ!

カレンの代名詞は、撮影の裏側を見せるコンテンツ。試行錯誤して生み出した撮影のアイディアを舞台裏のストーリーとして生々しく見せています。これが世界中の人に「私にもできるかもしれない」と思わせるインスピレーションとなっています。
例えば、ローラーのついた椅子を使って一気にカメラを引くショットを撮影したり、ドローンショットと見せかけて全部手動で撮影していたり、ストップモーションを駆使してリアルとアニメーションを融合させた動画を作ったり…。

Low Budget Filmmaking(左・真ん中)
adventures on my cork board (tutorial)(右)
私が個人的に好きなのは、このショート。折り紙テイストの映像に仕上げるというものなんですが、こちらも本編が5万回くらいの再生に対して、裏側は87万回!(2025年7月時点)

本編 Origami world - using AnimateDiff
裏側 Origami world (behind-the-scenes)
全部撮影した後に、なんか自分のキャラクターに納得いかない。。。前髪だ!となって、前髪を足してまさかの全部撮り直し!この数秒でカレンのこだわりや熱意がすごく伝わってきます。
完成動画で世界を魅了しつつ、その作品を「どう作ったか」をまとめたコンテンツでさらに共感と尊敬を集める。それがチャンネルが愛される理由だとカレンは考えています。
もし結果だけを投稿していたら、どれもバズらなかったと思います。大事なのは「どうやって作ったのか」であって、だから私はBTSの見せ方についてのほうに、より多くの時間を使って考えているんです。
Million $ Shot with No Budget | Ft.
裏側をあえて別撮りする
「撮影中に裏側を同時に収録する」という一般的な前提をあえて外して、後日改めて裏側だけ撮影するのがカレン流。
なぜなら、本編ではひとつのショットに10回、20回とテイクを重ねます。その中でのベストショット、裏側を説明しやすいアングルを確認したうえで裏側の撮影に臨むからです。
彼女にとって、裏側はその場の偶然ではなく、伝えるための二次設計。一つの独立した作品として制作するために裏側用の撮影をわざわざ行っています。
その世界観の作り込みがすごい!
本編映像と裏側映像の見え方の差にもカレンは徹底的にこだわります。
たとえば、ドローン空撮をとっているかのような「釣り竿ショット」。収録した裏側映像が高画質すぎて、完成映像の方が逆に安っぽく見えてしまったといいます。

そのため、完成映像の方を良く見せるために裏側映像の画質をわざと落とし、あえてザラザラした質感に仕上げたそうです。
こういった画質の荒さの調整だけでなく、わざと手書き風の矢印や親しみのあるテロップを入れられることが多くて、これもすべて「視聴者が自分にもできそうと思えるかどうか」を軸に設計されているんだなと感じます。徹底されていますね!
コンピレーション動画はクリエイターは絶対に作るべき
カレンがクリエイターによくおすすめしているのは、複数のクリップを共通するテーマで1つにまとめる「コンピレーション動画」の作成。過去の動画をまとめるんじゃなくて、全く新しい映像をまとめた動画のことです。コンピレーションじゃなく総集編って言うとなんか違いますよね。オムニバス動画?とにかく
断片的にテクニックを解説するのではなく、ショート動画という短い時間にまとめて、圧倒的なインパクトを残すように紹介することで「この人の頭の中、もっと見たい」と思わせることができるといいます。
低予算の撮影アイデアをまとめたコンピレーション動画
Low Budget Filmmaking
それまで1投稿ごとに数百人ずつ増えていた程度だったのが、なんとこの動画は一晩で10万人のフォロワーを獲得しました。本人も衝撃的だったそうです。
コンピレーション動画が効果的だ!とわかって出したこちらの動画。家にあるものでイケてる映像を撮る方法をまとめたものなんですが、この動画だけで30万人フォロワーが増えたんですって。
Low Budget Filmmaking with Household Objects (Part 2)
「コンピレーション動画は私という存在の広告になる」と、この形式が持つ力をカレンは強調します。単発の動画だと「おもしろかった」で終わってしまいがちなのが、3, 5本とアイデアを連続で見せることで「この人他にもなにかありそう」と思ってもらえると。それが自然にフォローにもつながっていくと語ります。
Million $ Shot with No Budget | Ft.
これはクライアントワークにも適用しているようで、例えば商品をアピールするためのスクリプトを全く異なる視点から10本作り、それぞれ素材を50個とか用意して10本の動画を組み立てていくと話していました。
私たちは“家”じゃなくて“レゴ”として考えるんです。『これが10個の違うレゴ作品だ』とまず考えて、それから『必要なレゴのパーツを全部つくろう』って。で、あとで組み立てればいい。そうすることで、1日の撮影でたくさんの動画をつくることができるんです。
Karen X Cheng - Sharing Talents Through Video (REWIND)
注意点は、ただ「映像をまとめただけ」にしないこと。構成に明確な意図を持つことが大事です。カレンは、編集の際いつも人に見せて「この5つの動画の中でどれが一番インパクトが強くてどれが一番弱い?」か聞き、ストーリーテリングの原則に沿って、強いクリップを最初と最後に入れるようにしているそうです。
投稿頻度を捨ててでも「質で突き抜ける」
コンピレーション動画での成功体験を通じて、カレンが行き着いた結論は「あえて投稿頻度を下げる選択」でした。
SNSって、ネタを思いついたらすぐ出せっていう雰囲気あるじゃないですか。でも私は、クリップを出すのを我慢して、いくつか溜まってからコンピレーションにして出すようにした。それで10倍…いや100倍、いや1000倍のリターンが返ってくるから。
Million $ Shot with No Budget | Ft.
ちなみにこのショート動画1つ作るのに約2週間かけたというコメントを見つけました。

こちらの動画は、制作になんと5ヶ月以上かけたといいます。Insta360というカメラを長い棒の先端に取り付けて撮影し、絵画のようなエフェクトをつけた映像です。このエフェクトの効果をテストし、その5ヶ月後に動画を投稿したと話しています。最初は棒を持ちながら自転車を運転しようとしたけどカメラをうまく固定できなくて失敗、次は棒を腰に固定できるウェストバンドを見つけたけど今度はカメラをぶつけて失敗、などたくさん苦労があったようです。
Art Portals (shot on Insta360 X4)
コンテンツの質も頻度もどちらも担保できるのが理想ですけどね。私もどちらか迷ったら頻度の方を捨ててますね。忘れ去られちゃうリスクはあるけど、ブランドを毀損するものはその一瞬でだめになることもあるので絶対に出したくないんですよね。その分本当に質の高いものを出すことが求められるんだけど。カレンは高まった期待値を裏切らずに毎回スパッと面白い映像を出してくれるのがすごいですね。
AIを使いこなすカレンのお気に入りツール
もう一つカレンについて紹介したいことがあって、彼女AIを使った動画コンテンツのアイデアがすごいんです。OpenAIとの仕事を手掛けるほどなんですが、

DALL·E、Midjourney、Stable Diffusion、Disco Diffusionといった主要ツールはもちろん、少しマニアックだけどユニークなテイストにできるツールもカレンは試しています。
【1】ストップモーションをスムーズに変換するDain
こちらの芝刈り機のように引きずられる映像を編集する時には、Dainというストップモーションをなめらかに変換するツールを使っています。まずは、うつ伏せ状態でカクカクのストップモーション撮影しDainで補間。それで見えない糸で引きずられるような動きを作り出しました。Dainだと動きが完璧になめらかになるとカレンは話しています。
Dainのスムーズさはこのショートを見るとわかりやすいかも。
Using Ai To Smooth Out My Stop Motion Footage

スムーズにストップモーションが動く様子を伝えるKaren
【2】スマホから異次元3Dを生成するNeRF

Using NeRF to scan mirror surfaces
そしてこちらの動画。めちゃくちゃ美しい!これはスマホでスキャンしたり写真を使って3D空間を作ってくれるNeRFというツールを使ったものです。光の反射や鏡のあるシーンも忠実にスキャンできるので、伝統的なフォトグラメトリでは不可能だったアングル表現を可能にしています。
NeRF は今かなり人気が出てきています。NeRF は、スマホのようなどんなカメラでも使ってシーンをスキャンできる方法で、すると突然美しい3Dのようなスキャンが得られるんです。興味深いのは、これが従来のフォトグラメトリと違う点です。なぜなら、光も扱えるからです。
NeRF は基本的に「粒子的な光のフィールド」を構築していて、見る角度を変えると光の当たり方も変化するんです。だからこそ、従来のフォトグラメトリではできなかった鏡の処理もできるんです。
AI and the Creator Economy with Karen X Cheng
【3】EBSynthを応用したファッションショー
次はこちらのファッションショーの動画。すごくスムーズに服が変わってますよね。
これはまずDALL·E 2を使って新しい服を生成し、動画に使う好きな服の画像を選びます。しかしDALL·Eは静止画専用。動画としてスムーズにつなぐ機能はありません。そこで、本来は絵画タッチの映像に変換するツールですが、EBSynth(*AIツールではない)を使って服のデザインを反映していくと、、、ほんのちょっと違和感はありつつもかなり自然になりました。最後にDainを使ってぬるっとしたスムーズさを出して完成!
AI Fashion Tutorial - getting DALL-E to work for video
制作の裏側を語ったショート動画

AI含めツールをうまく使った動画がたくさん公開されているので、やり方も裏側映像で丁寧に説明してくれてますしね。映像の幅をもっと広げたい方はぜひカレンの動画を見てみてください!
まとめ
カレンについてまとめると、
- 完成品より「裏側」を主役に
- アイデアはコンピレーションで“束ねて”見せる
- 投稿頻度より質で突き抜ける
- AIを上手に使いこなす
というのが素晴らしいクリエイターでした!特に撮影の裏側を見せるのは、大事とは思ってもなかなかできてない人が多いと思います。制作の価値を可視化できるのでぜひ取り入れてみてほしいです。
少し個人的な話をすると、このチャンネル作ったきっかけも「クリエイターってよく見えない!」ってところなんです。アウトプットは見えても、その裏でどんな努力を重ね、何を表現しようとしているのか、思考プロセスってなかなか一般人には届かないんです。だからね、表面的なものだけじゃないクリエイターの素晴らしさを感じてもらいたくてこのチャンネルをやってるんです。一人でも多くの人に「クリエイターってこんなことやってるんだ!すごい!」って思ってもらいたいし、クリエイターのみなさんにも自分の魅力を伝えるヒントになると良いなと思ってます。
カレンについてまとめていたらまたまた長くなってしまったので(文字数4万字あった!)、続きはクリエイターズアークメンバーページで公開中です。ぜひそちらもご覧ください。
- AIブームに燃え尽きたカレンが辿り着いた答え
- OpenAIと「世界初AI表紙」を生んだ裏側
- 「アルゴリズムの奴隷」は今すぐやめて