Payload Logo

【海外情報】企業動画に革命を起こしたアメリカのCMディレクター、アダム・リサゴル

By ゾエ(川添志穂)

アダムリサゴル

↑動画で見る方はこちら


広告動画の革命家、アダム・リサゴルを知っていますか?

「オンライン動画広告界のマーティン・スコセッシ」、「シリコンバレー・スタートアップのご指名監督」などと称されるアダムは、Slack、Figma、Airbnb、Squareなど当時まだ無名だったテック企業を次々と世に押し上げてきたアメリカのCMディレクターです。

広告動画が抱えてきた「コマーシャル=押し売り」という既成概念をぶっ壊し、「プロダクトの価値を“体験”として伝える短編映画」へと書き換えました。

チャットツールSlackのプロモーション動画はYouTubeで500万回再生、複数カードを一つにまとめられるCoinの動画は公開1か月で約 700 万回 を突破、予約販売開始から1時間足らずで目標額を達成といった偉業を成し遂げています。

アダムはどうやって広告動画を改革してきたのか、その裏側を共有します。

アダム・リサゴルのストーリー

アダムは映画学校を出て映像業界でキャリアをスタートさせましたが、常にテック業界に夢中で大のAppleオタク。そのオタク気質が高じて作った Twitter 下書きアプリ 「Birdhouse の宣伝動画がすべての始まりです。

自宅の裏庭。豪華セットはゼロ、企業ロゴもナシ。
少し陰キャっぽい開発者のアダム本人が友だちに語りかけるテンションで

「思いついたツイートを下書き保存して、あとで推敲できるんだ」

と語る動画です。

2009 年当時はテックCM=派手演出が定番だったこともあって、この「素の感じ」が本物っぽいとこの動画がアプリそのものより話題になりました。

そして企業から「同じような動画をつくってほしい!」と依頼が次々舞い込みます。中には「説明役もアダムで」と指名してくるクライアントもあり、オタク気質で本当は出たくないと思いながらも出演するはめに。だから初期の作品ほどアダム本人が出て説明する動画が多いんですよ。「静かなヒゲの解説者」というキャラクターが定着していきます。

個人では捌き切れなくなりSandwich Video(現 Sandwich)を設立します。

すごいのが、2016年の講演で語っていたんですが、創業してから一切営業活動をしたことがないんですって。待っているだけで手に余るほど案件が来ていたようです。

制作に関してだけでなく、アダムは「報酬のもらい方」の常識を変えたことも注目すべき点です。それまで映像制作業界ではほぼなかった、制作費の一部を株式で受け取る仕組みを作りました。テック系スタートアップ企業ってキャッシュに困ってるところも多いですから。その資金事情を踏まえて生み出したものですが、このハイブリッド契約で10 倍超のリターンを獲得した例も。

いまや 60 社超の株式ポートフォリオを抱える、「クリエイティブ版 VC ファンド」状態になっています。

こうしてアダムは、クリエイター兼投資家という稀有な立場を築きました。

一機能に的を絞る

商品紹介動画でよく畳み掛けるように機能を羅列するようなの見ません?でも情報が多いほど伝わらないというのが残酷な事実。アダムは伝えたい価値を1機能に絞り込んでいます。

さきほどのBirdhouse の 2 分動画で語った機能は「ツイートを下書き保存できる」ただ一点だけ。 それでも観た人は、“自分のネタ帳”を手に入れるワクワク、ツイートを完璧にしたいという「感情」が揺さぶられます。

 Coin のローンチ動画もそうです。語られる機能は「複数カードを1枚にまとめられる」これだけ。

分厚い財布が出てきたあとに、Coinのカードが出てきてクレジットカードやデビットカード、会員カードやギフトカードなどが1枚にまとめられることが語られます。

この動画は公開1か月弱で約 700 万再生、予約販売を開始してから1時間も経たずに初月の売上目標である5万ドルを達成、というすごい結果となりました。その時の

CEOもこれは広告動画のおかげだと語っていました。

共感を核に、説明は最小に、体験は最大に。このシンプルな構成が、スキップしたくなるWeb広告を「最後まで見たいコンテンツ」へと変えた鍵です。

あるいはもう一つの間違いは、誰もに当てはまる一つの小さな物語を語る代わりに、あまりに多くの人々に、あまりに多くの物語を語ろうとすることです。それは大変なことです。これだけ長年テックマーケティングに携わっていれば、もっと賢くなっていると思うでしょうが、経験豊富なマーケティング担当者でも同じような間違いを犯しているのを目にします。


"Or the other mistake is trying to tell too much story to too many people instead of telling one small story that can apply to everybody." "It’s a lot. And you would think that by now, by this many years of tech marketing, people would know better, but you still see seasoned marketing people making the same types of mistakes."


https://www.itshipped.fm/episodes/15

王道のストーリーテリングで十分

具体的にどういう動画構成なの?というところですが、アダムは王道のストーリー構造を使っています。

  1. 問題を提示する
  2. 解決策を見せる
  3. その解決策が何かを説明する
  4. 付随的なメリットを紹介する
  5. そして解決策を再度提示する

この流れが色濃く出てるなあと思ったのがSlack の紹介映像。(2014年制作)

① 問題提示
社内メール/Gチャット/SMS が散在し、混乱するシーン。

② 解決策の提示(チラ見せ)
テロップ「そこで Slack」+ロゴ。導入後のオフィスを見せる。

③ 解決策の説明
Slackを使うと、すべてのコミュニケーションを1か所で行うことができることを説明。
社員がチャンネルを切り替え、ファイルや GIF が一元化される様子を実演。

④ 付随的メリット紹介
モバイル連携でいつでも見られる、他社アプリ連携で簡単共有、などをテンポよく見せる。

⑤ 解決策の再提示+CTA
社員全員が集まって「会社がハッピー」だということを明示。最後にもう一度ロゴを映す。

しっかり王道のストーリーのパターンに沿ってますね。やっぱり変にひねるより王道でいくのが間違いない。個人的に、冒頭の「私たちはメールとDropboxで問題なくまわしてた」という一言も見る側が共感できていいなと感じました。

過度な宣伝臭を徹底的に排除する

アダムの映像には「売り込み」の押しつけがほとんど感じられないのがすごいところ。「広告を広告らしく見せない」 ことを意識しているそうです。演出は控えめに、でもリアルに。

例えば、当時 17 歳の天才高校生ニック・ダロイシオが開発したニュース要約アプリ Summly のプロモーション動画では、イギリス人コメディアンのスティーブン・フライがゲスト出演。大げさなリアクションはなく、2人で落ち着いた口調で語る姿が印象的です。過度な形容詞もなくリアクションも素朴でリアルな感じです。頭上にスマホの UI が浮遊しますが、CG はあくまで説明補助。「1 分で主要ニュースを把握できる」という点をテンポよく表しています。

Summly(2012年)

音楽ストリーミング Rdio の動画を撮ったときは、俳優の演技が少しでも誇張されると、「コマーシャルっぽくなり過ぎてる。抑えて、もっと淡々とやってみよう」と何度もストップをかけたそうです。演者の中にある“人間らしさ”をどれだけ引き出せるかが鍵だとアダムは語っています。 「友人が新しい音楽サービスを勧めてくれた」温度で受け取れるように。

Rdio(2011年)

それを使うとどう感じるか「感情」に着目する

アダムの哲学は、スペックより「感情」を伝えること。たしかに人間の脳は論理より感情を先に処理しますからね、まず感情をトリガーに構成するのは理にかなってますよね。

「感情」というとふわっとしますが補足すると、いわゆる“雰囲気だけCM”がイメージの供給にとどまるのに対し、アダムの映像は「疑似体験」を提供するというものです。

みなさんも何かテクノロジーに触れて「うわぁ」って心躍る瞬間ってありません?それをそのまま伝えようとする、という感じ。

例えばiPhoneが登場したのは2007年(日本では2008年)ですが、最初に手に取ったときどう感じました?衝撃を受けませんでした?今でこそスマホは当たり前ですが、みんなパカパカ携帯使ってましたから、誰もそれまで「四角い手乗りサイズのスクリーンでその中でアプリを開けるやつ」がほしいなんて思ってないじゃないですか。

そのときの「うわぁ何だこれ!!」っていう感情を映像で表現することにアダムは力を入れます。

例えば、Jawbone Jambox のときは、手のひらサイズのスピーカーが放つ大音量に驚いた瞬間の鳥肌を再現しようとしました。撮影では製品説明よりも「スイッチを入れた瞬間の笑顔」「音への没入感」を優先し、視聴者に同じ感覚を追体験させる作りにしました。結果、Jambox は「小さいのにすごい音が出る」イメージを瞬時に浸透させ、大ヒットにつながりました。

さっき紹介したSlack 動画の「感情」は何かというと、たぶん「情報が滞留せず流れ続ける気持ちよさ」を表現したんじゃないかなと思います。SaaSの価値って口でなかなか説明しづらいんですけどね、自分たちで使ってみたリアルな感想と、「メッセージがオフィス中を飛び交う感覚」を映像でうまく表現していて、なんだか自分もSlackを体感したような動画です。

「感情ワード」をまず決める

じゃあどうやって感情を映像にしていくの?というところですが、アダムは脚本に入る前に必ずホワイトボードにあるものを書き込んでいきます。それは書き込むのはスペックでも機能一覧でもなく、製品が視聴者に与える「感情ワード」です。

例えば、この世に「信号機」がなくて新発明だとして、届けたい感情ワードは例えば

秩序(乱雑な交差点を整理する)/安心(車も歩行者も守る)/権限(青になれば進んでいいという許可をくれる)

といったもの。そして抽出した単語を軸に、映像の色温度・BGM・セリフを決めていきます。

もし「秩序・安全」が核だと決まれば、例えば

  • 映像=車列が整然と止まり、人が安心して渡るシーン
  • ナレーション「止まれ / 進め が一瞬でそろう」
  • 色調=落ち着いたグリーンとレッドの対比

というように与えたい感情がクリアだと映像のイメージが自然と決まっていくと。この感情ワードこそがストーリーの芯であり、スペック説明よりも先に言語化すべきだとアダムは言っています。

私自身、「まず“感情ワード”を決める」ことを制作の出発点にしています。たとえば新しいサービスに触れる前に、自分が感じた微細なワクワクや不安をメモして、クライアントにも徹底的にヒアリングします。

そうすると一気にストーリーに深みが出るし、感情を決めてからクリエイターさんと連携すると映像の判断軸が迷わないのもありますね。もし今、機能的価値にばかり着目していたらぜひ一度感情ファーストに振り切ってみてください。アイデアの幅もコンテンツの空気感も変わってくるんじゃないかなと思います。

まとめ

企業CMのあり方を一新したアダム、企業動画を作っている方は共感する部分が多いのではないでしょうか?

まとめると、

・なんでもかんでもではなく一機能に的を絞る
・王道のストーリーテリングに沿って構成する
・とにかくリアルに!過度な宣伝臭を徹底的に排除する
・与えたい「感情」をはじめに定義する

というのがすごいクリエイターさんでした!

アダムに関しても調査しまくってまさかの7万字超え(笑)書ききれなかった内容をメンバーページ(無料)で公開中です。ぜひご覧ください!

▼アダムの続き

・ストーリーボードよりテックスカウトを重視
・「課題解決がシンプル」な会社の動画が作りやすい
・感情をダイレクトに刺激する言葉を探す

全く新しい
クリエイティブな発想を得たい

全く新しいクリエイティブな発想を得たい

Creators ARCメンバーの一員になろう【無料登録】

Creators ARCメンバー限定で、世界の素晴らしいクリエイターに関するより深堀りした情報を公開しています。ご登録は無料です。

※Creators ARCに興味を持っていただいた方によりコアな情報をお届けするため、一部に非公開情報や有料コンテンツからの引用などを含んでいます。そのため、メンバー限定での公開とさせていただいています。