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登録者240万人を抱える22歳の映像クリエイター Gawx(ガウクス)。
撮影場所はメキシコのワンルーム自室、機材はAmazonで買ったライトに紙筒を被せた即席スポットライトと、スケートボード2台で作った手製ドリー。それでも完成映像は「Netflix級」と評されるほど美しい。ユーモアと広告さえ溶け込ませるその制作術は、DIYの概念を軽々と飛び越えて世界を魅了しています。
アート×映像美|ガウクスのストーリー
ガウクスは得意なアートと、映像美をかけ合わせた動画を発信しています。
元々は自分で書いたアート作品を学校の友達に見せるためにInstagramに投稿し始めたのがSNS活動の始まりでした。アート作品の投稿がより多くのオーディエンスを獲得し、2017年、14歳の時にYouTubeチャンネルを開設。元々iPod touchを使って動画を撮ることも好きだったので、今のイラストと動画どちらもミックスしたスタイルを確立しました。
「友達に向けた発信」という軸があったため、当初からガウクスのコンテンツは身の回りの生活や感情をありのままに表現するものが多く、ユーモアたっぷりなのが特徴的。それが彼を他のクリエイターとは全く違う、際立った存在にしていったように思います。彼自身も「なるべく本当の自分を見せるようにしている」と話しています。
鮮やかな色使いと独特のキャラクターデザインが特徴で、スニーカーやスケートボードのカスタムデザイン、大規模な壁画制作など幅広く展開しています。2022年4月にはNew Balanceとのコラボレーションも実現しました。
アート初心者の私でも、見てて「うわーすごいな」と毎回感じます。よくよく調べてみるとガウクスは生粋のアーティストなんですよね。父親はメキシコのフィルハーモニー管弦楽団の演奏家、母親も同じくプロの演奏家、さらに祖父の描いた油絵が家中に飾られた環境で幼少期から芸術に触れて育ちました。あとで詳しく話しますが、この芸術家の家族のサポートももらいながら動画制作をしているのも彼の強みです。
美しいだけでない、引き込まれるコミカルな映像
ガウクスの映像が群を抜いて印象的に残る理由は、映画級の美しさに加えてコミカルな遊び心が同居している点なんじゃないかなと思います。
例えば、
・レトロ調
これはフィルム調のノイズとカラーで、映画の幕開けのような感じ。
https://youtu.be/EmabKHUTf34?si=jgxA025DWDBr52_f&t=22
・デジタルとアナログ融合
このデジタルとアナログを融合したシーンにも目を奪われます。
https://youtu.be/EmabKHUTf34?si=LB9Q5DWe0dxeDxHJ&t=286
・面白い場面転換(2人いる)
あとこれ、奥にもう一人ガウクスがいて、ワンカットのように上手に場面転換しています。
https://youtu.be/EmabKHUTf34?si=62_8tTaM9AOUROy4&t=266
・ロボットやアニメ風な動き
また、こちらの届いた小包を拾い上げるわずか数秒のシーンの動き。
https://youtu.be/r6IK9wBGCD8?si=ZR9GonrIAqt_L6Bb&t=29
ぎこちないロボットっぽいような何だか見たことあるような動きになっています。
このシンメトリー構図とミニマル動作が混ざったような演出は、ウェス・アンダーソンのような映像を意識しているそうです。
こういうちょっとした引っ掛かりを各シーンに散りばめることで、視聴者は最後まで「何が来るか分からないワクワク感」を保ったまま映像を見続けられるようになっています。
コミカルなのは映像だけじゃないんですよ。
彼自身のキャラクターにも愛着を覚えるような工夫がなされているように思います。
例えば、彼の作品の冒頭によく登場する「So today(そこで今日は)」というフレーズ。彼は普通に読むのではなく、わざと「today」を裏声にしています。
元々はチャンネルを始めた当初、まだ声変わりしていなかったので声が高かったのと、ハイテンションでおもしろいチャンネルにしようと思ってわざとやったそうです。それが今ではガウクスのシンボルの一つになっています。
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また、ワードチョイスにもキャラクターが出ていて、例えば、イラストの縁取りのことをガウクスは「Sexy lines」と呼びます。

縁取りをするガウクス
イラストを描くチャンネルなので縁取りの工程はよく出てくるんですが、この言葉を聞くと視聴者は「縁取りプロセスがきた!」と感じるような、彼独自の合言葉のようになっています。
ユーモアをあえて動画に入れ込むというのは結構難しいテーマですが、こういうワードチョイスなら事前に考えて真似できるかもしれません。
撮影時に最優先するのはライティング
ガウクスが撮影時に何より重視しているのは、「ライティング」です。彼自身「映像のくっきり度合いやカメラワークよりも、すべては光で決まる」と語り、特に重要な黄金ルールは「影の側」からカメラを捉えること。
You may think that things like sharpness or camera movement are the most important aspects.
But it is much more simple than that.
It all comes to lighting.
—映像でいちばん大事なのは、映像のくっきり度合いやカメラワークだと思うかもしれません。
でも実はもっとシンプルで、すべてはライティング次第なんです。
影側を捉えることで、
- 立体感や奥行きを感じさせやすくなる
- ハイライトとシャドウのコントラストが強調される
- 被写体の質感や表情を際立たせる
といった映像を生むと語っています。
ガウクスはシーンごとにハードライト/ソフトライト/クール/ウォーム/RGB/自然光…など使い分け、ライティングの配置も背面・側面・上部・前面などと配置を変えます。たとえ同じ部屋でもどんなライトをどこに置くのかによって大きく変わるので、画角やカメラワーク以上に重視していると言います。

光の当て方で雰囲気が変わることを伝えるGawx
機材にお金はかけない!安いけど高クオリティーな撮影をするアイデア
ガウクスのインタビュー映像などたくさん見て知ったんですが、映画級の映像なのにローコスト撮影で機材にお金をかけてないんですよ。その工夫がすごいんです。
例えば、こちらの映像。すごくスムーズに机の上を映しています。
実はこれ、スケートボード2台を活用した自作の台車に、カメラをつけたCスタンドを載せて撮ったショットだそうです。

AI生成イメージ図
回転するスケッチブックのシーンでは、グリーンバックは緑色のタオルで代用。あとから編集で背景を抜いています。
撮影の裏側を説明するGawx
完成したスケッチブックをクローズアップするシーンでは、スポットライトのような照明になっています。ガウクスはこのときスポットライトのような照明を持っていなかったのでソフトボックスのついてないライトの前に紙でできた筒を被せて、ビームっぽい光を演出したといいます。

工夫次第でこんな映像が撮れるんだ!?とびっくりです。多種多様なショットを試しているガウクスにとっては、機材を揃えることよりもいかに早く映像を実現できるかのほうが大事なのかも。
家族と作る息ぴったりのチーム制作
ガウクスの凝った映像は、家族の強力なバックアップ体制があります。どうしても一人で撮影って難しいことよくありますからね。チームだと表現が一気に広がります。
例えばドアを開けてスケッチブックを持つ人物にクローズアップしていくシーンでは、ガウクス本人かと思いきや、実は弟。ガウクスがカメラを持って撮影し、このときのショットは難しくて何度もやり直したそうです。逆光やフォグマシンを使って顔を見えにくくするなど、工夫も凝らしています。ちなみにドアを開けたのはお父さん。この数秒のシーンだけで三人が共同作業しています。
また、このシーン。
お父さんの手であることを明かすGawx
手が映ってるのでどうやって撮影したの?と思うところですが、これはガウクスがスケートボードとカメラを操作し、パソコンのタイピングの手は実はお父さん。画面には白いタブを開いて、明るく光が反射するように工夫もしています。
こちらのシーンも!マーカー視点でカメラが動くショット、躍動感があっておもしろいですよね。こちらも実はマーカーを動かしているのはお父さんの手なんです。ガウクス自身がカメラを構え、お父さんがペンを動かす2人1役の共同演出です。

父と協力して撮ったシーン
また、ガウクスファミリーは音楽一家。音楽を決める時には音楽家の父にアドバイスを求めることがよくあるようです。弟に音楽を作ってもらうことも。
もちろんライセンス型の音楽プラットフォーム「 Musicbed」「Epidemic」「Artlist」もよく使いますし、特に「Musicbed」にはクラシックのラインナップが多いのでよく使うと話していました。
編集で最も重要なのは音楽
ガウクスはナレーションや映像そのものよりも「音楽」が最重要だとはっきり言っています。それは音楽は映像の雰囲気・感情・リズムを決めるから。
音楽の選定は簡単なことではなく、複数の楽曲を試して比較するなど、音楽選びに数日かかることもあるそうです。クラシックやジャズ、エレクトロファンクまで幅広く使用していて、毎回、動画の最後に楽曲がクレジットされています。
特にガウクスはモーツァルトやベートーヴェンなどのクラシックを大胆に使っていて、今はそれがガウクスのスタイルになっています。実はクラシック音楽を使うことはスタンリー・キューブリック作品のオマージュだそうです。キューブリックは「映画音楽はオリジナルの楽曲を使う」という慣習を一変させた監督ですね。
「2001年宇宙の旅」J.シュトラウスⅡの美しく青きドナウ
https://youtu.be/e-QFj59PON4?si=eC8sZ49nzD6TUM6K
「時計じかけのオレンジ」ベートーヴェン交響曲第9番
https://youtu.be/gqfF3rbhES8?si=c60sRay1dp70Ca9X&t=20
And I was scared because who uses classical music on their videos on YouTube? Like, that's for old people.
最初は不安でしたよ。YouTube でクラシックを流すクリエイターなんてほとんどいませんし、「それって年配向けじゃないの?」と思われがちですから。
But it gives like a Timeless sense, the Timeless vibe to the video.
でもクラシックを入れると映像に「時代を超えた」雰囲気が生まれるんです。
スポンサー動画と感じさせないストーリー構成
もう一つ、ガウクスに関して紹介したいのが、彼のストーリー構成力。特に彼がすごいと言われているのが、企業のスポンサー動画をスポンサー動画だと感じさせないところ!YouTubeで発信している人にとって、プロモーション動画をどう自分の動画に溶け込ませるかは頭を悩ませるポイントの一つですよね。
ガウクスもその一人で、最初に企業案件が来たとき、視聴者の体験が損なわれるのではないかと悩んでいました。スポンサーをいれることに罪悪感さえ感じていたそう。しかし今や、いまや広告を動画に「挿入する」のでなく、物語に自然と溶け込ませるために「演出する」クリエイターに。次第にその挑戦が楽しみになっていると語ります。
特に印象的な動画は、お掃除ロボットの動画。皆さんだったらどう自分の動画に溶け込ませますか?
動画としては「キャラクターのイラストをどうプロっぽく書くか」というテーマで、描くプロセスを紹介していきます。作業に没頭し、寝る予定が深夜2時半近くになったことを言及。翌朝、冷蔵庫から食べ物をとって急いで机に戻ろうとしたところ、つまずいて転んでシリアルを床にぶちまけます。そこでお掃除ロボットがローアングルでまるで救世主のように登場します。
それまで白黒の映像が急にカラーになるところも工夫されていますね。
この動画の物語の流れの中で、「スポンサー商品(掃除機)が登場すべき理由」を伏線として見せて上手に登場させています。
ガウクスは、商材が自分の映像ジャンルや文脈に合っていなくても、どう作品として統合していくか?を考えることがおもしろいと言います。
また、スポンサーパートはときには動画の中で短い休憩としても機能するとガウクスは考えています。だからおそらくお掃除ロボットの動画ではBGMは明るいもの、映像もレトロ風に変わっていて、ちょっと変わった、おもしろそうな雰囲気に仕上がっているんじゃないかなと思います。
「スポンサー部分はストーリーの短い“休憩”としても機能する」
“I think they add like a short break in the story as well, like a time to breathe and then you go back.”
スポンサー動画を作る際は、その内容をもとに「スポンサーありき」で動画を設計し、時には1つの作品に300フレームのストーリーボードを作るそうです。300フレームはすごい!かなり綿密に設計されているのがわかります。
まとめ
まとめると、ガウクスは、美しいだけじゃなく印象に残る遊び心ある映像、ライティングと音楽にこだわり、それをローコストで実現するすごいクリエイターでした!ガウクスの映像は思わず数秒ごとに一時停止してじっくり見てしまう。
ぜひガウクスの映像を見てみてください!ガウクスのチャンネル>https://www.youtube.com/@GawxArt
今回も熱くリサーチしすぎて長くなってしまったので、後編はメンバーページに載せておきますね。(メンバー登録は無料です)
- ガウクスの撮影機材&愛用ツール
- 制作プロセスー感覚派から計画派へ移行
- クリエイターへのメッセージ「映画もアニメも音楽映像もYoutubeもとにかくなんでも見て盗め!」
そしてそして、以前紹介したナタリーとガウクスの対談があって!!胸熱コラボ!この内容も一部メンバーの方に近々お届けする予定です。海外の登録制コミュニティーにあった内容なので公開できなくてすみません!ぜひ楽しみにお待ちください。
では、また次の動画でお会いしましょう!