Vlog界のレジェンド、ケイシー・ナイスタットにその才能を見出され100本のVlogを一緒に制作、自身のYouTubeチャンネルも登録者93万人超え。
MrBeastの慈善チャンネルではCCO(最高クリエイティブ責任者)としてクリエイティブ全権を担う影のブレインを務め、MrBeast本人が「自分のチャンネルのプロデュースを任せる唯一の人物」とまで絶賛。
大物YouTuberたちが惚れ込むダンの映像制作とはなんなのか、徹底的に深堀りしていきます。
ダン・メイスのストーリー
ダンは南アフリカ出身、1990年3月7日生まれの35歳。映画学校で学んだのち広告ディレクターとして頭角を現し、2016年・2017年とカンヌ国際広告祭で若手監督賞(Young Director Award)を3度受賞という前例のない快挙を成し遂げます。

Dan Maceの短編作品Mine Sniffing Rats
2016年に「Changing the World Frame by Frame」部門でシルバースクリーン賞を受賞した作品。地雷探知で社会貢献するネズミを追う内容。
しかし、彼は広告業界で成功しながらも自分の作品がどれも同じに見えてしまうことに悩み、“インプットとなる人生経験”を求めて飛び出したのがYouTubeの世界です。
2018年以降はVlog界のレジェンド、ケイシー・ナイスタットに誘われ渡米し、裏方として約100本のVlog制作に関わります。
自身のYouTubeチャンネル「Dan Mace」(旧称 Dan the Director)にも力を入れ、現在チャンネル登録者93万人超え。旅、音楽、Vlog、ドキュメンタリーなど多岐にわたるオリジナル企画を投稿しています。もうね、ほんと独創的。独特の感性を持っているのがすぐにわかると思います。
例えば、レンガの音だけで音楽を作ってみたり。こういう身近なものの音で音楽を作るというのはダンが得意とするところですね。
The Weeknd - Blinding Lights (BUT played with BRICKS)
視聴者クリエイターから募集した「挑戦したいこと」を選んで現地に飛び、1週間で映像を一緒に作り上げるというシリーズも。すごいアイデアと行動力。
「リアル・ムンバイ・ミュージカル」
「彼のお気に入りのユーチューバーをサプライズで紹介しました」
あとは超強面のギャングをツアーガイドとして雇ってケープタウンのラベンダー・ヒルに撮影しに行ったり。銃犯罪が多い危険地域ですが、一見恐いこの方はその場所で地域の子どもたちの居場所づくりをしようと奮闘していて、ダンはこういった裏にある人間味やコミュニティの課題にスポットライトを当てています。こういうドキュメンタリー撮るのも本当に上手。
I Hired a Gang Lord as my Tour Guide
活躍はYouTubeにとどまらず、テレビシリーズを手掛けたり、さらにハリウッドへ活動の場を広げ、ワーナー・ブラザース=ディスカバリーと長編企画の開発にも取り組んでいた矢先、2022年末、転機が訪れます。
世界最大級のYouTuberとして知られるMrBeastから「チャンネルを任せたい」と声がかかったのです。なんとダンは長編映画を一旦断念し、MrBeastが運営する慈善チャネル「Beast Philanthropy」の最高クリエイティブ責任者(CCO - Chief Creative Officer)に就任しました。
MrBeastは、
”彼に全幅の信頼を置いている。だから、もし動画が“神レベル”なら、それは彼のおかげ”
“I’m fully leaning on him so if the video’s god tier it’s because of him... ”
と言っていて、ダンへの信頼がかなり厚いことがわかります。
MrBeastの「影のブレイン」ダンはどうアイデアを着想するか
ダンはとにかく「どうやってそれ思いつくの!?」という動画のアイデア力がすごいです。
具体的にどうアイデアを着想しているか、その方法はこれ。
- 10秒ブレストゲームでとにかくアイデアを出す
- 4つの質問でアイデアを精査する
- 同じテーマの映像を2時間かけて集める
10秒ブレストゲームでとにかくアイデアを出す
まさか今一人でアイデア探ししてませんよね?
ダンはフィルムメーカーの友達を集めてゲームのようにアイデア出しをしています。
1人ずつ10秒以内に頭に思いついたことを何でも言うというものです。出たアイデアから実際に映像化されたら、アイデアの考案者は報酬をもらえるという仕組み。
出るアイデアは「ギャングと一緒に公海で犯罪をする」とか「1年間舌が使えないとどうなるか」とか突拍子もないものですが、実際に制作されたものも。
自分のアイデアをぶつけられる人や自分の考えを広げてくれる人に囲まれること、そしてダメダメなアイデアをぶつけてもちゃんと茶化してくれる友達が大事だと話しています。
たしかにアイデアって自分だけじゃなかなか出てこない。というか自分の力だけじゃ無理だって思ったほうがいい。自分を過信しちゃだめ。単純に自分のテリトリーでしか発想できないんでどうしても同じようなものになりがちなんですよね。私も同僚や家族とアイデアの壁打ちをするんですが、本当に自分以外の視点って大事だと感じます。
4つの質問でアイデアを精査する
アイデアを思いついたら、本当にそれをやる価値があるのかを見極める必要があるとダンは言います。そのために自分自身に問いかけているのがこの4つの質問。1つでもNoならやらないと。
1.予算内で実現できるか?
予算の範囲で現実にできるアイデアか。できないなら、次へ。
2.もしゲリラでやるなら危険・違法じゃないか?
→ そうならやめておけ。資金が足りずゲリラでやるとして、危険・違法に抵触するならやらない。
3.かかる時間は投稿サイクル内?
→ 時間は最大のコスト。“その労力に見合う価値があるか?”を冷静に考えろ。
4.誰かを犠牲にしてないか?
→ しているならそれは最悪のミス。他者を損なってまで達成するのは最悪のミス。倫理に反するなら見送る。
クリエイターのほとんどが資金も時間も限られているはず。アイデアは湧くけど実行が散らばっちゃうタイプの人いません?選択と集中のふるいがないと、撮りっぱなし作りっぱなしが発生してしまいます。無駄な企画に踏み出す前に即・撤退判断が必要です。そのための4つの質問。一見「わかってるつもり」の内容に思えますが、それをちゃんと仕組みに落とすとスピードも完成率も一気に上がります。
ポイントは、素早く10分以内で判断すること。時間をかけすぎないのが肝です。深堀り沼、だめですよ!そうすればやがて自分のルールになって意思決定しやすくなるとダンは言っています。
同じテーマの映像を2時間かけて集める
カメラワーク、編集、サウンドの発想を増やすために、みなさんはどうやってます?
ダンは撮影前に同じ題材の映像をYouTube, Vimeo, テレビCM, 企業動画など2時間かけてチェックして参考データを集めています。これをすることで新しいアイデアが大量に湧き出てくるとダンは言います。
参考映像集める?そんなのやってるよ、と思う人もいるかもしれないですが、ダンの場合インプットの量が半端ない。
例えば、
「テーマ + ドキュメンタリー / ショートドラマ / 広告」
「テーマ + 舞台裏(Behind the scene)」
「テーマ + サウンドデザイン」
「テーマ + モーショングラフィックス」
「テーマ + 真実 / 簡単 / 速攻」
このくらいキーワードを変えて探してます。
カメラワークも、カメラ手持ちなのか、グッと来た揺れは?スローは?構図は?
サウンドは環境音は?無音をどう使ってる?
とにかく自分がグッとくる瞬間を参考として集めます。
ここで大事なのは後ですぐに取り出せるように厳密にフォルダ分けすること。
イメージ
01_ストーリー構成
02_カメラワーク
03_編集パターン
04_サウンド
05_モーショングラフィックス
99_裏側の見せ方
私も色々キーワード変えてリサーチするのはよくやってるんですが、本当におすすめしたいのは英語で検索すること。日本語と英語のコンテンツの量は圧倒的に違います。っていうか細かくキーワードを変えて探すと日本語だとほぼ出てこない。英語だと入ってくる情報量が全然変わってくるのでぜひやってみてください。
アイデアから実行へ 〜ダンの突出したストーリーテリング術〜
アイデアを見つけ、次にじゃあそれをどううまく表現していく?というところになりますが、ダンはこのストーリーテリングの力もすごいんです。
刺さるストーリーの4要素
良い物語には4要素あって、撮影現場や編集でどう仕込むかを考えていきます。
その4要素はこちら。
- 自分を重ねられる登場人物
- 重要な瞬間/出来事
- 本物の感情
- 具体性
1.自分を重ねられる登場人物
その人の立場に自分を重ね、“自分だったら…”と想像し物語を体験できるような人のことです。
MrBeastの慈善チャンネルでは現地のローカルに伴走して“ unsung heroes(縁の下のヒーロー)”を見つけ、インタビューから次の人物を芋づる式に発見して深堀りしていきます。
ネパールの動画では、地元のエンジニア・サンジェと出会い、十分な医療を受けられず子どもをなくした母ネロの悲劇を追います。
2.重要な瞬間/出来事
どこに一番の盛り上がりを持っていくかを決めます。
ネパールの動画では初めて電気がついた点灯式の瞬間ですね。ここを視聴者が求める到達点として、それを際立たせる障壁を逆算していきます。この障壁に時間的成約を加えると緊急性が出てさらに物語が強くなるとも言っています。
3.本物の感情
被写体の本物の感情を引き出し、視聴者に本物として届けること。
そのために被写体が自然体でいられる撮り方、カメラから目線を外して話してもらったり、感情に踏み込む質問をして会話の中で引き出したりして作り物っぽさを排除します。
4.具体性
最後に具体性。
「9,000フィートの山頂の病院」など数値・地名で言い切ったり、暗闇で懐中電灯手術の描写、「水不足は“蛇口からポタッと1滴落ちる”具体的な画」で示したり。
ただし、やみくもに具体的にというわけでもありません。「省略の理論」で不要を削りつつ、必要な具体を残して観客に解釈の余地を与えることも考えていきます。人間の脳の仕組み的に、全てを説明してもらうんじゃなくて自分で空白を埋める作業をすることがより記憶に残るし、共感も強くなるし、好奇心を掻き立てられるからです。
その具体と抽象のバランスがダンはもう絶妙。
良いストーリーテリングは型がある
ストーリーをどう表現していくか、ダンはストーリーテリングは基本三幕構成としています。始まり、障壁、終わり(Setup, Conflict, Resolution)です。古くからある起・承・転結と同じような伝統的なものですね。
ネパールの病院に電力を通す回の動画がまさにその流れになっているので解説しますね。
まず、始まり。クリック直後に「これはまさにその動画だ」と確信させつつ、強烈な一撃で注意を引きつける部分です。この動画では山頂の病院のBefore→After対比を見せてインパクトを与えています。BGMやSEの切り替えも世界観をうまく表現しています。
次に障壁。感情の山がここに入ります。
この動画では、登場人物を掘り下げ、さらに障壁を具体化しています。電力ゼロ、困難な地形、極寒の気温、資金調達など、説明ちっくになりすぎず映像で観客の理解と共感を深めます。あと、ダンの動画の特徴なんですが、ダイジェティック音、環境音とかそのシーンのリアルな音のことですね、それをよく使ってるんですよね、BGMべったりを避けて現地の音で没入感を作っています。さらにアニメーションも活用して世界観をわかりやすく、そして情緒的にしていきます。
最後、終わりは、解決・変化・学びの着地。ソーラーパネルによる電力供給が決定。
点灯式→病院稼働で、冒頭に約束した内容を回収します。今後は夜間診療ができ出産の安全性も上がる未来を見せ、自然と視聴者に寄付を促していきます。
ダンがてがけるBeast Philanthropyチャンネルの動画はこの流れに沿っているのでぜひ色々見てみてください!
コツは個人のストーリーに焦点を当てること
視聴者の心を深く動かすためには、まず一人の具体的な個人の人生に焦点を当て、その人物の旅路を追うことが効果的だとダンは話しています。これにより、観客は感情移入しやすくなると。
プラスチック汚染がウミガメに影響を与えている
という物語を語りたいなら
海にいる1万匹の美しいウミガメが危険にさらされている
というショットをたくさん見せるよりも
一匹のウミガメを擬人化し、その旅路を追って
最後に『そして、ウミガメのように影響を受けている個体が他に1万匹いる』
と語る方がより観客に響きます
"instead of going plastic is a problem look at it going into the ocean there's these beautiful creatures 10,000 of them and then seeing a bunch of shots of sea turtles in this environment that lives have been put in danger now it would make you care less than really personifying humanizing a sea turtle identifying with one sea turtle and then taking you through that sea turtle's Journey and then ending with going and then there are 10,000 more like X the sea total this is just a really great way of understanding utilizing a singular to really be able to identify on an eye to eye level on a heart to heart level with one human being"
これは本当に同意ですね。ミクロからマクロの順番がストーリーには効きます。
でも意外と逆に構成しちゃうケースが多いんですよね。まずは全体像の前置きから入るって教科書とかそうなってるからかな?染み付いちゃってるのかも。でもそれだと視聴者は理解はできるかもしれないけど心が温まる前に離脱しちゃいます。
まず共感、その後理解の順が大事です。
冒頭1分30秒を完璧にする
動画の冒頭って本当に気を使いますよね。視聴者はほんの数秒で見るか見ないかを判断します。ダンも「最初の1分30秒に力を入れる」というのは、映像制作、特にYouTube動画において絶対必要だと言います。そしてそこには絶対的な構造があると。
最初の1分30秒の戦略
0:00–0:05|インパクト(約束の即提示)
最初の5−7秒で、その動画の核心を見せます。
ネパールの山奥に電気を通した動画では、まずMrBeastを登場させインパクトを出し「何を達成するか」約束を提示、病院のBefore/Afterを見せてインパクトを出しています。
ここでの重要ワードは、Power(電気)/ Mountain(山)/ Hospital(病院)。
ほんの数秒で視聴者の関心を引き出す文章を何度も練り上げます。
0:05–0:30|フック(普遍テーマ+緊急性)
次に30秒くらいまでの間に、観客が動画を長く見続けたいと思う理由を与えます。
視聴者が共感できるようなより普遍的なテーマ(例:電気、水、食料、旅行、医療などの生活必需品)を切り口にし、暗闇で懐中電灯をつけながら手術をする様子を見せたり、十分な医療を受けられていないことを話したりして問題意識や関心を深めます。
0:30–1:30|確立(誰・どこ・どうやる)
ここまでで視聴者はフックに引き込まれているので、その先が聞きたくてたまらない状態になっています。最後1:30までに具体的なストーリーを語っていきます。
どうやって電気を通すのかの計画だったり、現地のキーパーソンを1人たてて共感を深めたりで、視聴者の理解と感情移入を加速させます。
この最初の1分30秒さえうまくできればこの動画は大丈夫、とダンは言い切っています。逆に言うとここに納得がいかなければゼロからやり直すこともあるそうです。
まとめ
大物YouTuberの影のブレインとして、そして自身も発信者として活躍するダン。感性は天才、アプローチは秀才という感じで、努力できる天才。本当にすごい映像クリエイターさんでした。
ダンに関して書ききれなかった内容をメンバーページ(無料)で公開中です。こちらも併せてご覧ください。
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