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Vlogの常識を塗り替えた動画クリエイター、カリザ・サントスのテクニック

By 川添 ゾエ 志穂

世界の映像クリエイター界で瞬く間に注目を集めたYouTubeチャンネル「Life of Lisa」。

カナダ出身のKariza Satos(カリザ・サントス)が手掛けるチャンネルで、普通の日常を美しく映像化する、いわゆるシネマティックVlogを発信しています。たった3週間で12万人以上のチャンネル登録者を獲得し、2024年12月時点で80万人超え。

計算され尽くした自然光の角度、全てに意味をもたせた小道具、ドンピシャなBGM…
もうとにかく映像が美しい!
私は偶然このチャンネルを見つけたんですが、思わず全ての動画を見漁ってしまいました。

何よりも驚くのは、カリザは映像の学校に通わず、徹底的なリサーチと独学で技術を磨き上げたということ。

どうやってこんな素晴らしい動画を作ってるのか知りたくなり、彼女に関する情報を調べまくりましたのでこの記事にまとめたいと思います。魅力的な映像を作るための細かいテクニックもあるのでぜひ参考にしてください。

世界の映像クリエイターから注目を浴びるカリザ・サントス

カリザ・サントスは映画のような技法で日常を美しく映像化する、いわゆるシネマティックVlogを発信するカナダの映像クリエイター。20代の等身大の暮らしを映画のようなビジュアルで切り取り、落ち着いた語り口が「美しくて癒やされる」と視聴者を魅了しています。

2017年1月にLife of Rizaというチャンネルを開始。(2025年3月現在、チャンネル登録者85万人)
最初は伸びず2023年5月初めには1万人いかないくらいのチャンネル登録者数でしたが、公開した動画「Be the Main Character of Your Own Life(自分の人生の主人公になろう)」が多くの支持を集め人気が急上昇。わずか3週間でチャンネル登録1万人から10万人へと急成長を遂げました。YouTubeドリーム!

私が驚いたのは、チャンネルが人気というところだけでなく、他の映像クリエイターたちがカリザの映像技法をこぞって真似しようとしてるところです。Life Of Rizaのテクニックや世界観に関して分析する動画が溢れています。

カリザを分析している動画

カリザを分析している動画

1本の動画がバズってチャンネル登録を伸ばしたことから「一夜にして成功した」とも評されましたが、カリザ本人は「これは開設から約6年以上にわたる地道な努力の成果であり、準備と機会の巡り合いが成功を生む」と語っています。

じゃあカリザがどう準備して映像技術を磨いていったのか?そのストーリーと具体的な技法を紹介していきますね。

365日自分の生活を記録することから始まった

カリザの動画は、「意図的な人生とはなにか」をテーマに日常の何気ない日々を発信しています。趣味の見つけ方、目標設定、生活の整理術といった一見ありふれたトピックを取り上げつつ、そこに深い意味を見出すストーリー性が特徴的です。

これは元々、2023年の初め、彼女はビデオカメラを手に「1年間365日毎日自分の生活を記録する」という挑戦から始まりました。

撮り始めたばかりの頃は、漠然と「日常をVlogにする」程度でした。しかし続けるうちに途中から「人に見せたいのはどんな世界観か?」「何が伝えたいのか?」といった軸がはっきり定まるようになりました。

失敗カットを量産しつつも、「なぜ上手く撮れなかったか」を検証するサイクルを1年間絶やさず回したことで身につけた撮影スキル。1年間という長期的かつ連続的なプロセスで自然と定まっていった、最初は気づかなかった「自分の好みやスタイル」。

「まさか1年後にこんな展開になるなんて思ってもみなかった」と多くの発見と自分の成長をカリザは語っています。この壮大な創作実験があったからこそ、一般的なYouTuberの「常に喋り続ける」「間を作らない」といった定石にはとらわれない、カリザらしい映像技法が生まれたのだと思います。

「クォーターライフ・クライシス」が原動力

「1年間自分を撮り続ける」という挑戦の背景には、カリザ自身の抱える「クォーターライフ・クライシス」がありました。人生の4分の1(クォーター)が過ぎる20代後半~30代前半に陥りがちな心理状態のことなんですが、カリザも20代半ばの人生の節目に差しかかり、自分の将来や存在意義について漠然とした不安を感じていました。「私、何かしなきゃ」と。

でも何もできないような気がする。いや、何から始めたらいいのかわからないだけかも…
そのモヤモヤを創作のエネルギーに変える決断をしました。彼女は「待っているだけでは人生は勝手に動いてくれない。自分で探しに行かなきゃ」と気付いたからだといいます。

その結果生まれた動画には、カリザの等身大の悩みとその克服のプロセスが素直に映し出されていて、「受け身でいては何も変わらない」という力強いメッセージが同世代を中心に大きな共感を呼んでいます。

どこにでもいる普通の女の子が独学で映像制作を身につけた

カリザは映像制作を学ぶために学校へ通ったことはなく、独学で学んだというのも驚くべき点です。フリーランスで映像制作の仕事をしながらYoutubeで自分が映し出したい世界観と似てる人を徹底的に調査し、要素をブレイクダウンすることからはじめたそう。撮影技法だけでなく、ストーリーテリングのやりかたも含めてとにかく他のコンテンツを見続けました。

シネマティックなショットリストを事前に細かく決める

カリザが撮影前に事前に用意しているのが、スクリプト(台本)、ショットリスト、絵コンテです。特に「ショットリスト」はどのような素材を撮るかをリストアップしたものですが、これがかなり細かく決められてて驚きました。

カリザのショットリスト

カリザのショットリスト

こちらのリストは、おそらく「All you have to do is start.」という作品のペインティングシーンのものだと思うのですが、この画面に見えるものだけで10あります。

シネマティックに仕上げるためのフレームシークエンス

シネマティックに仕上げるためのフレームシークエンス

シネマティックに仕上げるためのフレームシークエンス

  1. Top down painting
    真上からのショットで絵を描いている(または作業している)様子を撮る
  2. CU brush on print
    クローズアップで、作品に筆で塗っているシーン
  3. CU brush dip
    クローズアップで、筆を浸すシーン
  4. Insert wide
    ワイドショットを挿入(全体の雰囲気を見せる)
  5. Insert reaction
    リアクション(驚き・喜びなどの表情)を挿入
  6. Show camera OG print
    作品をカメラに向けて見せる
  7. MS taking it out
    ミディアムショットで、その作品を抜く
  8. CU cutting it open
    クローズアップで、封を開ける作業を撮る
  9. Insert Put frame down on desk
    フレームを机の上に置く動作を挿入
  10. Grab frame from floor
    床に置いたフレームを拾い上げるシーン

このリストを見ながら実際の映像をぜひ見てみてください。細かいシーンが計算されつくされていることがわかります。(2:30あたりから)

無駄な撮影を省くためとカリザは言いますが、最高の表現にするためにも事前に決めておくことは大事だと感じます。実際、カリザはショットリストの時点でどのような音楽をシーンに入れるかもできるだけ決めておき、そのシーンでのバイブスを意識するようにしているようです。

絵コンテがあるのとないのとでは大違い

スクリプト、ショットリストの後は、カリザは絵コンテを必ず作ります。

おそらくYouTubeの動画に絵コンテまで作っている人は少ないはず・・・というのも、カリザは1日に30シーンも撮影しなければいけない時もあるので、時間や動画が無駄にならないよう絵コンテは必須だと言います。

絵コンテの例

絵コンテの例

絵コンテがあることで撮影している内容が正しいのか正確に把握することができますし、他の人に撮影を手伝ってもらう際にも役立ちます。「ここでこの画角、表情はこんなふうに」といった指示をできるだけ正確に伝えることができるため、時間が無駄になりません。

また、絵コンテは特に移動シーンの切り替えに役立ちます

例えば、「getting my life together(人生を取り戻す)」という作品の中で部屋の片付けをするシーンで、最初は屋外で話していたカリザが、あるセリフの途中で突然家の中にワープするようなシーンが収録されています。

(スクリプト)
Springtime what a nice time of the year
春って、本当にいい季節ですよね

arguably my favorite time of the year
多分、私にとっては一年で一番好きな季節です

it's a time of renewal a time of new beginnings
生まれ変わり、新しい始まりの季節でもあって

it's also the time...
それと同時に...

that my office is a mess.
うちのオフィスが散らかってるんです。(帽子を床に叩きつける)


ほんわかとした雰囲気から急にリアルに落とされる感じがおもしろい(笑)

画面の切り替えもタイミングが絶妙で、見る側はこれから何が起きるかワクワクした気持ちになります。このシーン切り替えは、事前にセリフの途中で室内に移動する流れを予め考えていたからこそ表現できたんだと思います。あらかじめ編集の流れを綿密に計算した上で撮影に臨んでいるカリザのこだわりがよくわかります。

最高のショットが撮れるまでトライし続ける

ほとんどは自分ひとりで撮影するカリザですが、必要があれば自分のこだわりを忠実に動画に収めるために、母やパートナーなど人の手を借りて撮影しています。

たとえば、人気作「be the main character of your own life(自分の人生の主人公になろう)」には、友人を車で迎えに行くシーンがあります。このシーンの撮影についてはKarizaは「このショットを撮るのが夢だった」というほどこだわりがあり、何度も撮り直したといいます。

注目すべきは、友人がきれいな構図で車の窓から見えるところ。

友人を車で迎えに行くシーン

友人を車で迎えに行くシーン

車で走ってきて、ピッタリな場所で停車しています。

これ、よく考えたらすごくないですか?ブレーキ踏むタイミングが数秒ずれるだけで友人が見えなくなっちゃいますよね。

そのシーンの撮影を再現しようとした動画がインスタに載っているんですが、おもしろいのでぜひ見てください!どれだけカリザが根気強く作品作りをしているのかがよくわかるはずです。

もう一つの作品「I went to NYC for a boy」の中で、ニューヨークの街を歩く彼女を撮影したシーンにも注目!

NYの街を歩くシーン

NYの街を歩くシーン

歩く姿をかなりスムーズに撮影しているので、映画撮影の機材か何か使っているのかな?と思いきや、彼女のパートナー(彼も映像クリエイターのColt Kriwan)が電動スケートボードに乗って撮影したようです!

映画「Juno」に出てくるような歩いてる風景を撮りたいと彼に相談し実現した映像とのこと。シーンとしてはほんの数秒ですが、ここはニューヨーク。撮影するロケーション選びや実際の撮影にはかなりの苦労があったと言います。いやー大変そう!被写体と撮影者のタイミング、他の人が歩いていない場所選び、車が来ない瞬間を待つ・・・想像できますね。

あえて手取り足取り説明しないストーリーテリングを追求する

カリザの作品を見ていて気づくのは、一般的なVlogより圧倒的に言葉が少ないということ。映像や演出でどう伝えようかが考え抜かれているなと感じます。

たとえば、先程も出てきた友人を車で迎えに行くシーン。スケートリンクに友達と向かうんですが、カリザは遅刻します。向かう前に「時間に遅れてる」というシーンを挟み、車がついたときに友人が「Seriously?!(どういうつもり?!)」と言う掛け合いがあります。

友人を車で迎えに行くシーン

友人を車で迎えに行くシーン

カリザはこのシーンのことを、「どんなふうにこの新しい登場人物を視聴者に紹介するか、と考えたときに、彼女を隣に置いて説明することもできたけど、それよりもこういった掛け合いをすることで私が約束に遅れがちな性格であることや、それに対して友人がどういう反応をしているかで彼女の性格もより伝わりやすいと思った。」と話します。


また、「For those who feel like giving up(あきらめたいと感じる人たちへ)」と言う作品の中では、彼女がガレージで「今日は特別な届けものがある(YouTubeの銀の盾のこと)」と言った直後に、画面をバッと振るようにしてシーンを変える流れがあります。(0:38あたり)

説明後に届け物を写すシーン

説明後に届け物を写すシーン

これは、

  • カメラを手に語りかけてからカメラを振るショット
  • カメラを三脚に載せて動かし、小包が並ぶ風景を撮るショット

それぞれ別に撮影し、編集でひとつにつなげています。とってもシームレスな映像になっていて編集技術も驚くところなんですが、注目すべきはショットの裏の「伝えたいこと」。

「このシーンは常に前進しているように演出したかったので、ただ長くしゃべるだけだと、テンポが落ちてしまうと感じた。だから1〜2行のセリフを話してから、意図的に画面を切り替えるように、作品の中でダイナミックな動きを作ろうとした」と話しています。

たしかによくYouTubeで見かけるのは「銀の盾が届きましたー!」とほとんど定点で撮った映像ですよね。カリザの映像表現だと、特別な届け物に対するワクワク感、未来につながる感、、、いろいろな感情が湧き上がってきます。


もう一つ、カリザはオフィスの掃除をしなければいけないというシーンでは、言葉が出ないというような状況をそのまま5秒程度の沈黙の間で表現しています。また、その後の深刻そうなBGMもこのシーンを引き立てています。

状況説明後に沈黙しているKariza

状況説明後に沈黙しているKariza

カリザがいうには、「視聴者は賢い。全部を言葉で説明して手をとって連れていくような描写よりも、点と点が線でつながる瞬間を自分で感じる機会を与える方が満足度が高い。だから全部を言葉で説明しないようにしている」

世界観を守るために細部までこだわる

カリザは「ここまでこだわる!?」と驚くほど細部まで映像にこだわっています。

例えば、前章でも紹介した小包が届いていることを知らせるシーン。YouTubeからの届け物で、ラベルや住所が見えたままになっています。動画を公開したら「個人情報が流出している!」と視聴者からメールがたくさんきたとのこと。

届いた小包を写しているシーン

届いた小包を写しているシーン

しかし、この動画で表示されているラベルに書かれた住所は、実はちゃんと編集された「フェイクアドレス」。ラベルに記載された住所はカリザがよく通っていた本屋さんの住所で、QRコードはスキャンするとLife Of RizaのYoutubeチャンネルにつながるようになっています。

かなり細かいところまでこだわっていますよね。

その理由をKarizaはこう話しています。

ほとんどの映像ではこういった情報が黒塗りされていることが多い。ですが、実際の日常では「これから荷物をとりにいく」と言ってるのに、黒塗りされている小包を受け取るのは自然な感じがしないので、フェイクのラベルを作ることにしている。


自転車に乗せている手紙の宛先もフェイク

自転車に乗せている手紙の宛先もフェイク

また、このような「言われないと気づかない細部」に遊び心を持たせるのは、イースターの時期にペイントした卵を庭のあちこちに隠し、それを見つける「エッグハント」というゲームを意識しているそう。「たとえ自分しかその仕掛けに気づかなかったとしても、好奇心がくすぐられるようなユーモアを入れたいと思っている」と話しています。

あとがき

カリザの映像は、言葉を使わないストーリーテリングがとても上手。映像だとテキストでは伝わらない情報をたくさん伝えることができます。企業の動画でも、喋り以外でどう伝えたいことを表現するのかという点で学べるところは多いと思います。

カリザの映像テクニックについて、長くなってしまったので後編はメンバーページへ。

  • 画角により意味をもたせる
  • 悪い音楽はいい映像を殺す
  • 沈黙と音楽をうまく使う
  • 絶対に破らない基本ルールをもつ
  • 自然光を上手に利用する
  • お気に入りのギアを揃える

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